猊下と呼ばれて

呼称について

 『下』の付く敬称はあまり無い。『陛下』『殿下』『猊下』『閣下』。因みに『陛下』=へいか 『殿下』=でんか 『猊下』=げいか 『閣下』=かっか と読む。近頃の若い人は、ひょっとしたら『猊下』を「にらみげ」などと呼んでくれる人もあるかも知れない。「にらむ」という字はよく似ているが『睨む』である。
 『閣下』も、ひょっとしたら「こうか」と読まれるかも知れない。太閤秀吉は「たいこうひでよし」と読むから。

 ある女子大生が、「それではハニワノヤドです」と歌を紹介したが、「埴輪」と「埴生」はよく似ているもんだ。テレビのアナウンサーも時々専門用語をとんでもない読み方をして、思わず「クックッ!」と笑ってしまう事もある。

 今では「早急」を「さっきゅう」と読める人は少なくなった。「そうきゅう」である。しかし、「早苗」は「さなえ」と読み、「そうなえ」とは読まない。「山車」は「だし」であり「やまぐるま」とは読まない。また傑作なのは「円滑」を「えんこつ」と読む人がいたり、「家賃」を「かちん」と読むに至っては何をかいわんや。

 さて、『陛下』はおのずと知れた天皇の敬称。『殿下』は皇族の敬称。『猊下』は一宗のトップクラスに付ける敬称。『閣下』は政治家や軍人のトップクラスに付ける敬称である。

 現在もよく使われるのは『陛下』『殿下』の二つぐらいである。『猊下』や『閣下』は死語になりつつある。今時、『小泉総理大臣閣下』などと言おうものなら、時代錯誤も甚だしいと言われる以前に、「キョトン」とされるのがオチであろう。

 ところが先日、ダイレクトメールのハガキの宛名に、「法福寺 ○○○○猊下」と印刷されたものが配達された。法福寺とは私の兼務している寺である。

 本堂の天井裏の大掃除を門徒の方とやっていて、「ちょっと一服」と休憩の中で、そんなハガキを見せられた。
 「おーっさんも偉い人にならはりましたなぁ。猊下でっせ。一宗のトップでっせ。こりゃ盛大に祝賀会をせなあきまへんなぁ」
 丹波篠山の小さな寺の住職に、なんで『猊下』なんじゃろな?

「住職先生ご在宅ですか?」なんて電話は、もう決まって投資か財テクかの勧誘である。「住職先生」と言われりゃ、「居りませんなぁ」とすっとぼける事にしているが、「猊下」にはちと驚いた。

 しかし中には、「住職」というのは権威主義だから、○○君と読んで欲しいという人があったけど、「住職」というのが権威主義の呼称なら、電車の「車掌」も権威主義なのかなぁ?。
 そういえば以前は「専務車掌」という腕章を巻いた車掌が検札に回っていた。あれは「乗客専務」と言って、列車の最後尾に乗って列車運行を担当する車掌を「運転車掌」、客席を回って、始発駅から終着駅まで乗客に直接関わる仕事をする車掌を「乗客専務」とか「専務車掌」と呼んだものらしい。

 寺に住み、寺の事を専務にやっているから「住持職」。略して「住職」なのだから、どこが権威主義なんだろう?。僧侶にも未だに階級というのがあるので、「○○寺権大僧都さん!」なんて呼ばれたら、ええ感じはせんがなぁ。

タダでやってくれるの?

 某電話会社の傍系の会社で、頭の出だしは全く同じなので、とても紛らわしいが、「電話の回線を1本で2本に使えるデジタル回線にしますので・・・・」という勧誘が度々あった。最後には二人連れでやってきた。

 わたしゃ、はじめはてっきり市内ケーブルが特殊な物になるので、電柱からの引き込み線を交換するものとばかりに思っていた。話をよく聞いてみると、要するに宅内での割り振りを一種の「ISDN」化にしようと言うのである。

 我が寺は、もう既に「ISDN」を通り越えて「ADSL」になっており、片やルーターやハブで至る所に配線が張り巡らせてあり、アナログ系はFAX専用回線とブランチにアナログモデムに直結されている。もう1回線はホームテレホンに入って、これも至る所に宅内配線が行き渡っている。オマケに、ホームテレホンは2外線用となっているから、どちらの回線も自由に使えるのだ。

 さて、これ以上にどのように改善すれば良いのだろうか?。光ケーブルが入ってきても、個々の電話機まで光ケーブルで結ばれることはなく、せいぜいが戸口までで、そこからはモデムルーターでアナログ化して行くことになる。そんなことはとうに承知しているのだ。

 「あんたの会社の都合で変更せねばならんなのなら、それはあんたの会社の都合だから、タダでやってくれたらええ。けど言うとくが、。光ファイバーになっても宅内配線は今のままで充分動作するのだから、今では何も不便はない。」

 何のこっちゃない。配線替えをして、工事費を稼ごうという魂胆。年寄の家庭なら、そんなに便利ならと、工事して貰ってもどれだけメリットがあるものやら・・・。ペテンと紙一重みたいなものやったなぁ。

遠距離通話が安くなります。

 そりゃ便利で良いなぁ。ところが我が寺は、「マイプラン」やら「K○○○遠距離サービス」にも入っているのだ。よく話を聞いてみると、遠距離サービスの相手先の番号を登録しておけば、そこにかける電話が20%だか30%だか安くなるそうだ。登録は2件まで出来るという。

 そりゃ結構だが、相手の番号はその会社に握られる事になる。商売というのは「情報の活用」ということであるから、今度は、その登録された先の家庭に「勧誘」があるのではないかと危惧する。

 同じ冠をつけた会社なのに、「116でなんとかかんとかの手続きをしてください」と言うではないか。「別会社ですから・・・」と。「安くなります」とは言いながら、「基本料金」はきっちり何百円か必要になっているようだ。
 因みに遠距離は夜間サービス時間帯にかけることにしている。

電気を売りませんか?

「屋根が痛んでいますね。この際、屋根を葺き替えて、ソーラー発電をされたらどうですか? あまった電気は売れますから・・・。」
 おー。そりゃええ考えじゃ。
 ところが、ソーラー発電のユニットなんてのは、1万円やそこらで買える品物ではない。よく聞くと、
 「35年分割で如何でしょうか?」
 「35年も経ったら、わしゃとっくに地獄に行っとるわ!。」
 「いや、電気を売る分で支払いが出来ますから・・・」
 毎日お日さんが出て居るとは限らない。毎日毎日バリバリ発電するわけがない。まして、電気を売って支払いが出来て、35年間というのは、あっしにとっては「プラスマイナス0」ちゅうこっちゃ。儲かるのは、ローンで先金が入ってくるあんたの会社だけ。
 因みに、「わしゃ電子工学が専門で、オマケに第一種電気工事士ですねん。」と、ホンマの事を言うたら、直ぐに帰った。

 「自分の電気は自分で作れ」と言うた人があった。
昼間に自転車のペダルを踏んで、発電機を回してバッテリーに充電しておく。夜になったらそのバッテリーで電灯を点ける。バッテリーの電気が無くなったら寝るのじゃ。
 腹が減ることじゃろう。

儲かりまっせ

 「○○を今買ったら、絶対儲かりますので」と電話で勧誘があった。
みんなが買ったらみんなが儲かるのかな?。損する者があるから儲かる。
わたしゃ言うてやった。
「そんなに儲かるなら、わしやったら他人様を勧誘なんかせんなぁ。『何も聞かずに金を貸してくれ』言うて、親戚中からかき集めて、一人儲けて、『おおきに』言うて返して回るわ。儲け仕事を人に漏らしたりはせんぞ」って。
「そうですなぁ」とは、しおらしい勧誘員であった。

 「消費者相談」というのがあって、先物買いで損することが多いものだが、その巧妙な勧誘のマニュアルが、「消費者相談窓口マニュアル」として配布されたのを見た。それからわずかのあいだに、そっくりそのままの手口でやって来た。

 一回目は帰って行くが、一週間目に息せき切って電話をしてくる。
「今買い時です!!」と。
そこではっきり断らないと、ものの5分もしない内に現れるという。

 いや、実にその通りであった。前の公衆電話からかけているのだから、5分もかからない。今じゃ携帯電話で、隣の部屋からかけられても不思議ではない。マニュアル通りだったから、
「あんたもマニュアル通りじゃなぁ。」と、ほとほと感心してやった。

矛盾

『矛盾』という語源をご存知かな?。
 昔、中国で、
 「この矛(「ホコ」つまり「槍」のこと)は、どんな甲冑も盾(「タテ」つまり機動隊の持っている「防御板」のこと)も貫き通せるすごい槍ですから、どうぞこれを買い求めなさい。きっと戦いに勝てますよ。」
と言いながら、今度は盾を取りだして、
「この盾はどんな矛でも防ぐことが出来ます。どうぞこれを買い求めなさい。きっと戦いに勝てますよ。」
と言ったそうだ。
 周りを囲んでいた人が、
「それではその矛でその盾を突いたらどうなるのか?」
と尋ねたそうな。
 何が矛盾しているのかどうかということを、よく考えて行動に移さないと、臍を噛むのはあなた自身。

永久機関

 「永久機関」という物をご存じかな?。
たとえば、
 上の水槽から水を落とす。その落ちてくる水で水車を回し、水車の回る動力でポンプを作動させ、再び水を上の水槽に汲み上げる。
 一見何となく実現しそうである。エネルギー不変の法則てなものがあるし・・・。
 ところが現実には絶対に実現しないのである。

 ひとつの物をたらい回しにしては、いつかは止まってしまうのである。ネズミ講も会員の限界があるし、土地のバブルも同じこと。

 そうあって欲しいと望むのは「夢」であるが、それを人が真剣に考えると「儚」ということになる。アメリカは富める国と思うだろうが、富は数%のごくわずかの人に集中し、大部分の人は貧しいということを知らねばならない。

 「うまい話は無い」ということだ。

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