
日帰りで播州赤穂を訪問した。赤穂市の歴史資料館、大石神社、花岳寺の3ケ所を巡り歩いた。資料館では城下絵図が展示してあったので、食い入るようにためつすがめつ眺めたが、不破数右衛門や岡野治太夫の住まいはとうとう見い出せなかった。
花岳寺の墓地には、不破数右衛門の実祖父にあたる岡野又右衛門の大きな墓標があった。話には聞いていたが実物を見るのは初めてだった。播州赤穂駅から徒歩での探訪だったので、延べ5㎞ほども歩いたのだろう。それこそ「息継ぎの水」にクリームソーダーをば。
播州赤穂駅に着いたら、駅の中に観光協会の事務所があった。ふと見ると、「あれ? このおっさん、私たちの隣の席で、柿の種をぽりぽり楽しんでた人やないか」。なんとまあ観光協会の方だったとは。で、若い女性職員に、「赤穂の義士祭で子どもの行列がありますやろ? 小道具の刀の補充はどこでしてはりまんのか? ウチではオモチャの刀がなかなか手に入りにくくて・・・」と訊ねると、何とご親切にもあちこち関係者宅へ電話を入れて調べていただくことになった。さすが播州赤穂の観光協会さんだ。
で、あちこち巡って、くたびれ果てての帰りは、播州赤穂発野洲行き新快速。相生駅を過ぎる頃から除々に混んでくる。高校生の下校時間とも重なっているようだ。相生駅から子ども連れの中年の女性が乗り込んできた。どうも実は若いお婆ちゃんと孫らしい。「どうぞ。私は大丈夫ですから」と、さっと席を譲ったのは女子高生。彼女は播州赤穂から乗っていた。何気ない、しかも席を譲ることに慣れた様子で乗降口に移って行った。彼女は網干駅で下車した。大きなバッグを抱えながらも、元気良くホームを歩いていく。心優しくて暖かな彼女の家族関係を想像したものだった。
電車は姫路駅に。もう通路には沢山の乗客が立っている。乗り込んできた中老の女性達の一人が突然通路で転倒してしまった。原因は次々と乗り込んで来る流れに沿って車内に入ってきたものの、サラリーマンが通路に置いていたキャリーバッグが、前の乗客の陰になっていて、まともに足を取られて転倒したのだ。幸い怪我はなかったものの・・・。2人連れの中年女性は、またしても女子高生が気持ちよく譲った席にお礼を言いながら座ることになった。
私は、キャリーバッグの持ち主に感心があった。40~50代のサラリーマンで、もう一人の連れはどうも部下のようだ。上司であろう彼は、キャリーバッグを網棚に置くこともせず。ところがだ。部下であろうもう一人は、網棚に置いていたキャリーバッグを通路に降ろして、中からノートパソコンを取りだし、何やらやり始めた。バッグの中にはバッテリーでも入っているのか、コードが出ていてノートパソコンの電源コネクターにつながっている。
「ごめんなさい」の一言もなく、「大丈夫ですか?」の声かけもなく、まさに傍若無人としたあのマナー。いったいどこの会社の社員なのかと目を凝らすのだが、何やら背広の襟にはバッジがあるものの、老眼の悲しさで・・・・。
ちょっと凄んでやりたくなっている私の胸中を察してか、カミサンがしきりに私の袖を引く。「本間は凄みたいんやろ?」と小声で。
社員教育がなっちょらん!!。この上司にしてこの部下あり。きっと社長も傍若無人な人なのだろうか?
大阪駅で降りる時に、彼等はまだ通路にキャリーバッグを置いたまま座り込んでいたので、新大阪?高槻?京都?まで傍若無人を胸に飾って行ったのだろう。「天知る 地知る 我知る」だ。「壁に耳あり 障子に目あり」だぞ。
播州赤穂駅から大阪まで、嫌ゃ~なものと、心暖まるものを対比するが如くに見せられた。
大阪駅で宝塚線に乗り換え。まともに通勤ラッシュの時間帯だ。疲れ果てた人々が乗り込む。カミサンははさすがに女だなぁ。うまーく一人分の空きにお尻をねじ込んで・・・。まあどっかで空くのだからと乗降口にもたれていたのだが、カミサンの隣に座っていた30代中頃の男性が、すっと立って私に席を譲るんだ。「良いですよ。大丈夫ですから」と今度は私の台詞だったのだが、「仲良く座って!」と私に頻りに席を譲ってくれる。彼は伊丹駅で降りて行った。その後も何度か席を譲り合う通勤ラッシュの出来事に出会った。
席を譲るのはもちろん若者。彼等も疲れているだろうに。ロートルが通勤時間帯に電車に乗るのは何となく気恥ずかしくなってきた。
あっそうそう、これも書いておかなくっちゃ。
播州赤穂の喫茶店で接客に来たかわいい笑顔の若い男性ウエイター。レジで勘定する時に聞いてみた。
「素敵なヘアースタイルだけど、どうしてるのか?」って訊ねてみた。
短いのだけれど、ちょっとキユーピーみたいに頭髪がきれいに立っている。一度あんなヘアースタイルをしてみたいものだと思っていたから。
「テンパーなんです」と言う。
「テンパー?」
「天然パーマなんで、短く切るとこうなるんです」と。
ドアーを開けて外に出てからカミサンが、
「あの子、顔を真っ赤にしてはにかんでいたよ」って。
「Sax吹く時にあんなヘアーにしたいんやろう?」
「近頃の若い者は・・・」と、年寄は嘆くが、いえいえ決してそうばかりではありませんぞ。素敵な若者は、ちょっと関心の目で見れば一杯いるんですよねぇ。そんな素敵な若者を見ると、彼等彼女らの周囲は、暖かい心の人に囲まれているような気がしてならない。 (2009.11.6)
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