今から35年以上も前の話。
高校を出て(何とか出してもらって)京都の学校へ行くことになった。京都の学校といっても京都大学ではない。
生物の講義で忘れることの出来ないことがある。丹信実という教授で、
「今年単位を取れなかったら、来年は授業に出んでも同じ講義があると思ったら大間違い。私は生物分類学という学問を講義するので、一巡するには11年かかる。つまり君たちは在学しとらんことになる」
そんな出だしで、初日の講義のテーマは「コーヒーの飲み方」であった。
「君らは田舎っぺだ。京の都へ出てきて、中には彼女が出来て、河原町の喫茶店でコーヒーを飲むこともあろう。コーヒーちゅうもんはなー・・・・」
と延々1時間半のコーヒー講であった。
1.最初はブラックのまま香りを楽しみ、ブラックの味を味わう。
2.次に少し砂糖を入れて、甘いコーヒーを味わう。
3.次にいよいよミルクを入れる。絶対かき混ぜてはならない。
ミルクが水面に広がって、コーヒーの香りが逃げないようにするのだ。
「君らは砂糖壺のスプーンでかき混ぜる。ミルクを入れりゃかき混ぜる。中には、コーヒーカップにスプーンを入れたまま飲む野郎がおる。君らの長い将来にわたって、たった一杯のコーヒーで恥を書くことだけはないように」
私らは、目を丸くして、その講義をノートにとった。
次の週。いよいよ糞難しい生物分類学とやらがはじまるのかと教室に入った。
丹教授は、
「君らは遠く親元を離れて、花の都で一人で生活していくことになった。自分の健康は自分で把握していく必要がある。今日は、自分の健康管理について講義する」
と言うことで、延々1時間半にわたって聞いたのはウンコの話であった。
1.ウンコは固くもなく柔らかくもなく。
2.形はバナナのごとく、直腸の形のままに出てくるのが最良。
3.紙で拭いても、ウンコが着かないのが最高に健康なのだ。
クソ難しいのでなく、いよいよもってクソまじめな話であった。私らは、目を丸くして、ウンコの形をノートにとって講義を聴いた。しょうもない講義ではなかった。田舎っぺの私にとっては、実にその後の人生の基礎となった。
いわゆるいっかどの人が、鼻の横っちょで匙(サジ:コーヒースプーン)を支えながらコーヒーを啜っているのを見ると、何とも滑稽に見えてくる。カップにスプーンを入れたまま飲まないでよー。
旧ホームページからの移転